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アートとしてのアルバムジャケット:女性アーティスト編_part1

2020/07/22

「女性アーティスト」として音楽のジャンル分けをするのは少々抵抗があるが、ジャズの世界では「女性ボーカル」という括りがあり、インスト(インストゥルメンタル)中心のジャズの中で「歌もの」ということと、女性に絞るような分類は、アルバムを探す際などに便利である。ここではジャズに限らず、また演奏者の女性もいるため「女性アーティスト」として範囲を広げる。

Carole King / Tapestry:キャロル・キング / つづれおり

carole-king_tapestryキャロル・キングといえば、その半生を描いたミュージカル「ビューティフル」が日本にも上陸、ということで話題になっている。
この「つづれおり」は、過去の挫折を越えて、再びシンガー・ソングライターとしてソロデビューしてから2枚目のアルバム。
内省的ではあるが、何か吹っ切れたような爽やかさや明るさも感じられる作品で、音楽的センスが開花したような楽曲が並んでいる。
録音も素晴らしく、「アットホームな雰囲気でレコーディングしたんだろうなー」と思わせる演奏と、楽器の一つひとつが現場の空気感とともに伝わってくる。
アルバムジャケットは、自然体でリラックスしながら、自分のやるべき方向性をつかんだ信念のような表情もうかがえる当時の彼女らしい写真。

Helen Merrill / Helen Merrill With Clifford Brown:ヘレン・メリル・ウィズ・クリフォード・ブラウン

Helen Merrill昔フュージョン系のバンドにいた頃、女性ボーカルを迎えて「You'd Be So Nice To Come Home To」をやることになり買ったアルバム。ジャケットにインパクトがあり、声も青江三奈(今だったら八代亜紀)のようなハスキーボイスなので、当時の私はヘレン・メリルって険しい顔をしたおばさんだと思っていた。しかし後で調べてみるとこのアルバム当時の彼女は25歳前後で、とても可愛らしい華奢な女性だった。
1960年の映像:https://www.youtube.com/watch?v=rkybDxsdBaQ
驚いたことに最近まで現役で歌い続け、今年2017年の4月にブルーノート東京でさよならコンサートをしたという。
アルバム自体は、クインシー・ジョーンズのアレンジの影響か、クリフォード・ブラウンのオブリガードがドラムスと絡んで実にかっこいい演奏が聴ける。

Carpenters / Now&Then: / カーペンターズ / ナウ・アンド・ゼン

carpenters_now&thenそれまでは笑顔の写真で、半ば作られたアイドルようなイメージに苦しんでいた二人は、いよいよ写真ではなくイラストのジャケットを選択した。イラストレーターは、このアルバムの成功で多くのアーティストのジャケットデザインを手掛けることになる長岡秀星。
赤い車は、リチャード・カーペンターが所有するフェラーリ、背景の家は2人の生家を忠実に描いている。2人の表情に笑顔はみられない。このアルバムのB面(LPレコードの場合)はイエスタデイ・ワンス・モア に始まり、オールディーズのカヴァーで占められている。ほとんどの曲でドラムスを叩いているのはカレン・カーペンター。When I was young I'd listen to the radio… 昔を懐かしみながら、過去を捨て未来に進んで行く二人の決心を思わせるようなデザインだ。

Kate Bush / Never Forever:ケイト・ブッシュ / 魔物語

kate-bush_Never-Forever「良いものも悪いものも女性から出てくる」ことを暗示しているかようなデザイン。
ある面、音楽業界の枠にはめられて、その才能を充分発揮できなかったケイト・ブッシュが、この3rdアルバムで本人もプロデュースに加わり、ある程度やりたいことができたのではないかと思える完成度の高い作品。

邦題の「魔物語」の通り、まるで魔女のように自由奔放に音を操り、たちまち異次元の世界に連れて行ってくれる。天才的な音楽的センスと卓越した表現力で、誰も到達できない領域に入ったと言えるのではないか。

Yano Akiko / Nagatsuki Kannazuki:矢野顕子 / 長月 神無月

矢野顕子上述したケイト・ブッシュとこの矢野顕子には似たものを感じる。人間性も音楽性も違うが、二人とも天才肌であり、特に女性ならではの感性を既存の音楽の枠を超えて、自由に表現しているからかもしれない。個性的すぎて付いていけない人もいるが、それも含めて天才的な表現者だ。
矢野顕子といえば、自由なピアノの弾き語り、坂本龍一らと作る良質なポップス、そしてアメリカのジャズミュージシャンとの演奏などその音楽性は幅広い。
このアルバムはファーストアルバム「JAPANESE GIRL」の5か月後位にリリースされたセカンドアルバムであり、初のライブアルバム。ファースト・セカンドと、ジャケットは日本的なデザインだったが、次の作品からは路線が変わっている。
それにしても、当時21歳にしてこの表現力と余裕は凄いとしか言いようがない。「君が代」のアレンジも聴きもの。



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